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2025.12.05
相続放棄の場合の遺品整理は要注意!3つのNG事例

親族が亡くなり、悲しみのなかで片付けをしなければならない状況で、「賃貸だから早く明け渡さないと」「ゴミ屋敷状態だから片付けたい」という焦りから、不用意に遺品を処分するのは非常に危険です。
なぜなら、民法で「相続財産の処分」を行うと、相続する意思があるとみなされ(単純承認)、本来なら払わずに済んだはずの「故人の多額の借金」まで背負うリスクがあるためです。
なお、以下の行動は単純承認とみなされるリスクがあるため、注意してください。
- NG行動①換金価値のある遺品を売却・処分する
- NG行動②被相続人の預貯金を使ってしまう
- NG行動③賃貸物件の解約手続きを行う
この記事では、相続放棄を検討している場合にやってはいけないNG行動や遺品対応のステップ、「単純承認には当たらない(OK)」とされているラインを包括的に解説します。また、よくある質問も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

遺品を勝手に捨てると借金まで相続?3つのNG事例

相続放棄を検討している場合、もっとも避けなければならないのが「法定単純承認」とみなされる行為です。これは「遺品(相続財産)を自分のものとして扱った」と判断され、自動的に相続を承認したことになる制度です。ここでは、うっかりやってしまいがちな3つのNG事例を紹介します。
NG事例①換金価値のある遺品を売却・処分する
もっとも危険なのが、少しでも市場価値があるものを売却したり、捨てたりする行為です。主に価値がある品としては、以下があげられます。
- 貴金属や骨董品、ブランドバッグの売却
リサイクルショップに売って現金化すると、明確な処分行為となる
- 自動車やバイクの廃車・名義変更
価値がないと自己判断して廃車にするのもリスクがある。査定に出して「価格がつかない(0円)」という証明が必要となる
- 新品の家電や家具の持ち出し
まだ使えるものを自宅に持ち帰ると、「自分のものにした」とみなされる
「リサイクル費用に充てた」としても、財産の形状を変える行為は「処分」に該当する可能性が高いため、絶対に避けましょう。
NG事例②被相続人の預貯金を使ってしまう
葬儀費用や当面の生活費が必要だからといって、故人の口座からお金を引き出して使うのは非常にリスクが高い行為です。とくに、注意が必要なケースとしては以下があげられます。
- 未払いの家賃や入院費の支払い
故人の財産から債務を弁済する行為は、相続財産の処分にあたる
- 自分の生活費への流用
少額であっても、故人の財産を私的に消費すれば単純承認となる
しかし、「葬儀費用」については、社会通念上相当な範囲内(身分相応な金額)であれば、遺産から支払っても単純承認にはならないという裁判例もあります。判断が微妙なため、自分の手持ち資金から立て替える方法が安全です。
NG事例③賃貸物件の解約手続きを行う
故人が賃貸アパートやマンションに住んでいた場合、大家さんから「早く解約して部屋を明け渡してほしい」と急かされる場合があります。しかし、相続人が賃貸借契約を解約するのは、相続財産である「借家権」の処分にあたります。
解約手続きを行い、部屋の中を空っぽにして明け渡してしまうと、相続放棄が認められなくなる可能性が高いです。大家さんには事情を説明して、自分では解約手続きを行わないようにしましょう。弁護士などの専門家に相談するか、相続財産清算人の選任を待つ必要があります。
相続放棄を成功へ導く!遺品対応の5つのステップ

「放置するしかないの?」と不安になるかもしれませんが、適切な手順を踏めばリスクを回避できます。2023年の民法改正により、一部の人の負担は軽減されています。
ステップ①資産と負債の調査を行う
まずは、本当に相続放棄すべきか判断するために、故人の財産状況を把握しましょう。プラスとマイナスの財産には、以下があげられます。
- プラスの財産
不動産や預貯金、有価証券など
- マイナスの財産
借金やローン、未払いの税金・家賃など
郵便物(督促状や銀行からの通知)を確認して、信用情報機関(JICCやCICなど)に開示請求を行えば、借金の全容を把握可能です。この調査段階では、遺品を整理するのではなく「確認する」だけに留めてください。
ステップ②「現に占有しているか」を確認する
2023年4月の民法改正により、相続放棄をした後の「保存義務(旧:管理義務)」のルールが変わりました。相続放棄をする時に、以下のように自分がその遺産を「現に占有しているか(実質的に支配しているか)」が大切です。
- 同居していた場合
「現に占有している」ため、相続放棄後も次の管理者に引き渡すまで、遺品や家を管理(保存)する義務が残る
- 別居していて鍵も持っていない場合
「現に占有していない」ため、相続放棄をすれば、原則として保存義務を負わない
これにより、遠方に住む疎遠な親族の家まで管理しに行かなければならない負担は、法的には解消されました。
参考:民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)について|法務省
ステップ③遺品には一切手を付けない(原則)
自分が遺産を管理している場合でも、相続放棄の手続きが完了するまでは、遺品の現状維持に努めるのが鉄則です。よかれと思って片付けた行為が「財産の処分」とみなされ、借金まで相続してしまうリスクがあるためです。
明らかにゴミとわかる生ゴミなどを捨てる程度は許容される傾向にありますが、価値判断が難しいものは絶対に触らないでください。自己判断で整理を進めず、そのままの状態を保つことが安全な対策です。
ステップ④家庭裁判所へ相続放棄の申述を行う
調査と現状把握が終わったら、管轄の家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出しましょう。この手続きには厳格な期限があり、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に行わなければなりません。
期限を過ぎると自動的に相続を承認したとみなされ(単純承認)、放棄が認められなくなります。書類準備には時間がかかるため、一刻も早く手続きを進めてください。
ステップ⑤次の管理者へ引き継ぐ
相続放棄が受理されても、自分が遺産を「現に占有」していた場合は、すぐに責任から解放されるわけではありません。法律上、次の相続人(放棄していない親族)や、家庭裁判所に選任された「相続財産清算人」に対して、遺産を実際に引き渡すまでは、管理(保存)を続ける義務があります。
この引き渡しが完了すれば、法的な管理義務が消滅します。勝手に放置せず、次の管理者へ確実にバトンタッチしなければなりません。
参考:財産管理制度の見直し(相続の放棄をした者の義務)|法務省
どこまでならOK?遺品整理の判断基準と3つのポイント

「一切触るな」と言われても、最低限の整理が必要な場面もあります。ここでは、裁判例などで一般的に「単純承認には当たらない(OK)」とされているラインを解説します。
ポイント①経済的価値のないゴミの処分
明らかに市場価値がない「ゴミ」を処分するのは、財産の処分ではなく「保存行為(衛生環境の維持)」とみなされるケースが一般的です。主に、以下があげられます。
- 腐敗した生ゴミ
- 古新聞、古雑誌
- 破れた衣服
- 明らかな家庭ゴミ
あとから「価値があった」と債権者から訴えられるリスクを防ぐため、捨てる前に必ず写真を撮り、処分リストを作成しておく方法がおすすめです。
なお、遺品整理を自分でスムーズに進めるステップについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:費用を節約!遺品整理を自分でスムーズに進める5つのステップ
ポイント②常識の範囲内での形見分け
「形見分け」とは、故人の愛用品を親族や友人に分ける行為ですが、範囲が大切です。過去の判例では、「交換価値のない(売っても値段がつかない)物」や、「常識的な範囲での少量の持ち出し」であれば、単純承認には当たらないとされています。以下が代表例です。
- OK例
アルバムや手紙、使い古した普段着、位牌
- NG例
高価な着物や貴金属、美術品
少しでも市場価値がありそうな物は、形見分けの対象にせず、そのまま残しておきましょう。
ポイント③ライフラインの解約は「保存行為」
誰も住まなくなった家の電気・ガス・水道を解約することは、無駄な出費による財産の減少を防ぐための「保存行為」と解釈され、問題ないとする見解が一般的です。
しかし、解約までの未払い料金を「故人の財布」から支払うと、単純承認になるリスクがあります。支払う必要がある場合は、必ず「自分のお金」から立て替えて支払うように徹底しましょう。
遺品整理の相続放棄でよくある3つの質問

ここでは、遺品整理の相続放棄でよくある質問をご紹介します。それぞれ詳しくみていきましょう。
質問①家族の写真は捨ててもいいですか?
一般的に、家族写真やアルバムには市場での「換金価値」がないため、これらを処分しても相続放棄ができなくなる「財産の処分」には当たらないと判断されます。
しかし、写真の間に現金や重要な書類が挟まっていないかは念入りに確認してください。また、心情的な価値が高い品物であるため、後々の親族間トラブルを避けるためにも、一言相談してから処分しましょう。
質問②葬儀費用は遺産から出してもいいですか?
状況によりますが、避けるほうが無難です。過去の判例では「身分相応の葬儀費用」であれば遺産からの支出が認められたケースもありますが、金額や内容によっては否認されるリスクが残ります。
もし「不相当」と判断されれば、単純承認とみなされ借金を背負わなければなりません。安全を期すなら、喪主が自分の資金で立て替えるか、香典で賄うようにして、遺産には一切手を付けないのが確実な方法です。
質問③管理義務(保存義務)はいつまで続きますか?
自分が遺産を「現に占有している」場合、次の管理者が遺産の管理を始められる状態になるまで続きます。もし、ほかの相続人が全員放棄してしまい、管理を引き継ぐ人が誰もいない場合は、家庭裁判所に「相続財産清算人」の選任を申し立て、その人に引き渡すまで義務が継続します。
この選任手続きには、予納金(数十万円〜)が必要になる場合があるため、専門家への相談が必要です。
自己判断は危険!遺品整理の前に必ず専門家へ相談しよう!

2023年の法改正により、別居していた相続人の負担は減りましたが、それでも「遺品に触れること」にはリスクが伴います。相続放棄を確実に成功させるために、以下のポイントを再確認して行動しましょう。
- ステップ①資産と負債の調査を行う
- ステップ②「現に占有しているか」を確認する
- ステップ③遺品には一切手を付けない(原則)
- ステップ④家庭裁判所へ相続放棄の申述を行う
- ステップ⑤次の管理者へ引き継ぐ
「少しだけなら大丈夫だろう」という自己判断が、数百万円の借金を背負う原因になるケースもあります。もし、賃貸物件の大家さんから退去を迫られたり、遺品の価値判断に迷ったりした場合は、自分で処理せずに、まずは弁護士や司法書士などの専門家に相談してください。正しい知識でリスクを回避し、平穏な生活を守りましょう。

