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2025.08.18
事故物件の告知義務とは?対象となる3つのケースと期間の基準をご紹介!
不動産の売買や賃貸を検討する際、事故物件の存在が気になる場合はありませんか。人の死に関する事実を伝える告知義務があるのは知っていても「いつまで告知が必要?」「自然死の場合はどうなる?」といった具体的なルールは複雑で分かりにくいものです。
実は、2021年に国土交通省が事故物件の告知義務に関して明確なガイドラインを策定し、判断基準はより具体的になりました。本記事では、最新の指針に基づき、事故物件における告知義務の期間や対象ケース、違反した場合の重いリスクまでを徹底解説します。
事故物件の告知義務とは?
不動産取引における告知義務とは、物件に存在する「心理的瑕疵(しんりてきかし)」について事前に伝えなければならない義務です。心理的瑕疵とは、買主や借主が心理的な抵抗を感じる可能性のある事柄を指します。
特に、物件内で過去に人の死があった場合は、告知義務の対象となります。2021年10月、国土交通省は「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定し、これまで曖昧だった判断基準を明確化しました。
なお、事故物件の契約で後悔しないための注意点については、こちらの記事でご紹介しています。
関連記事:【プロが教える】事故物件とは?契約で後悔しないための3つの注意点をご紹介!
1.告知義務の根拠となる法律
事故物件の告知義務は、主に宅地建物取引業法第47条と、民法における契約不適合責任に基づくものです。宅地建物取引業法では、不動産業者が買主・借主の判断に重要な影響を及ぼす事実を故意に告げない行為を禁止しています。
また、売主や貸主も、物件に心理的瑕疵があると知りながら伝えなかった場合は、民法の契約不適合責任を問われる可能性があります。これは契約内容に適合しない物件を引き渡した場合に売主が負う責任です。
この責任に基づき、買主は代金の減額や契約の解除、損害賠償の請求が可能です。
関連記事:瑕疵担保責任とは?民法改正による主な変更点や瑕疵トラブルを防ぐためのポイントをご紹介! | ビリーフ株式会社
2.国土交通省のガイドライン策定の背景
ガイドライン策定前は、事故物件の告知義務に関する明確なルールはなく、個々の不動産業者や裁判所の判断に委ねられてきました。結果として、どこまで告知すれば良いのか基準が曖昧で、トラブルに発展するケースも少なくありませんでした。
このような状況を改善し、不動産取引の透明性と円滑化を図るため、国土交通省は2021年にガイドラインを策定しました。ガイドラインでは、告知対象となる死因や告知義務が続く期間など、具体的な基準を示しています。
国土交通省のガイドラインは、不動産取引に関わるすべての人が従うべき指針です。
参考:国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関する ガイドライン」
3.告知義務を負う人物
告知義務を負うのは、物件を仲介する不動産業者だけではありません。物件の所有者である売主や貸主も、直接の当事者として告知義務を負います。
不動産業者は、売主や貸主からの聞き取りなどを通じて物件の状況を調査し、知り得た重要な事実を買主・借主に説明する責任があるのです。一方、売主や貸主が意図的に事実を隠していた場合、たとえ不動産業者が知らなかったとしても、契約不適合責任が問われるのは売主・貸主自身です。
したがって、取引に関わるすべての当事者が、誠実に情報を提供しなければなりません。
4.告知すべき内容の詳細
事故物件であると告知する際には、ただ「人が亡くなった」と伝えるだけでは不十分です。買主・借主が適切な判断を下せるような、情報を提供しなければなりません。
具体的には「発生時期(いつ)」「発生場所(どこで)」「死因(なぜ亡くなったか)」の3点を伝える必要があります。例えば「〇年〇月頃、当該住戸の寝室において、自殺による死亡があった」というように伝えます。
また、特殊清掃や大規模なリフォームが行われた場合は、その内容についても告知するのが望ましいでしょう。
【死因別】告知義務が発生する3つのケース
事故物件の告知義務は、人の死に関するすべてのケースで発生するわけではありません。ここでは、どのような場合に告知義務が発生するのか、代表的な3つのケースを具体的に解説します。
1.他殺・自殺・火災などによる死亡
物件内または日常生活で通常使用する共用部分で、他殺、自殺、あるいは火災や事故によって人が亡くなった場合は、原則として告知義務が発生します。これらの死因は、多くの人にとって強い心理的抵抗感を引き起こす可能性が高いためです。
そのため、契約を結ぶかどうかの判断に極めて大きな影響を与えます。たとえ発見が早く、室内の状態が良好であったとしても、事実自体を隠して取引を進めてはいけません。
事件性や事故性が高い死因については、必ず告知が必要だと理解しておきましょう。
2.自然死でも特殊清掃が必要になった場合
老衰や持病による病死などの「自然死」は、原則として告知義務の対象外です。しかし、例外も存在します。
例えば、孤独死などで遺体の発見が遅れ、腐敗などによって室内に臭いや汚損が生じ、特殊清掃や大規模なリフォームが必要となった場合です。このケースでは、死因が自然死であっても、物件に物理的な影響と強い心理的瑕疵が生じていると判断されるため、告知義務が発生します。
発見までの期間や室内の状況が、告知の要否を判断する上で重要なポイントとなります。
3.事件性や社会的な影響が大きい事案
ガイドラインで定められた告知期間が経過していても、事件性や周知性が高く、社会に与えた影響が大きい事案については、期間を問わず告知が必要になる場合があります。
具体的には、テレビのニュースや新聞で大々的に報道された殺人事件や、近隣住民の間で広く知れ渡っているような凄惨な事件が起きた物件などが該当します。
このような物件は、時間の経過だけでは心理的瑕疵が払拭されにくいと考えられるためです。そこで、買主や借主が安心して生活を送る権利を保護する観点から、例外的に長期間の告知義務が課せられるのです。
【取引別】事故物件の告知義務の期間
事故物件の告知義務がいつまで続くのか、その期間は不動産の取引形態によって大きく異なります。ここでは、賃貸借契約と売買契約、それぞれのケースにおける告知義務の期間について、具体的な年数や考え方を詳しく解説します。
1.賃貸借契約の場合は「概ね3年」
賃貸物件の場合、告知義務の期間は「事案の発生から概ね3年間」とされています。これは、賃貸借契約では入居者が入れ替わる場合が多く、時間の経過とともに人の死に対する心理的な抵抗感が薄れていくと考えられるためです。
この3年間は、たとえ一度別の人が入居したとしても、次の入居希望者に対して告知義務が継続する点が重要です。ただし、前述の通り、社会的な影響が極めて大きい事件などの場合は、3年を過ぎても告知が必要になるケースがあるため注意してください。
2.売買契約の場合は「期間の定めなし」
不動産の売買契約においては、告知義務の期間に明確な定めはありません。事実上、半永久的に告知義務が続くと解釈されています。
売買は賃貸に比べてはるかに高額な取引であり、買主の所有権が永続するため、心理的瑕疵が資産価値に与える影響は非常に大きいと言えるでしょう。たとえ何十年前に起きた事件であっても、その事実は買主の重要な判断材料となるのです。
また、建物を取り壊して更地として売却する場合でも、その土地で過去に人の死があった事実は必ず告知しなければなりません。
事故物件の告知義務に違反した場合のリスクは4つ
事故物件であると知りながら告知義務を怠った場合、売主や貸主、仲介した不動産業者は、法的に重い責任を問われます。ここでは、告知義務に違反した場合に具体的にどのようなリスクがあるのか、代表的な4つの請求について解説しましょう。
1.契約解除
契約前に事故物件だと知っていれば契約しなかった、と判断されるほど重大な告知義務違反があった場合、契約そのものを解除される可能性があります。契約が解除されると、売主は受け取った代金を全額返還し、買主は物件を元の状態に戻して返還しなければなりません。
賃貸の場合も同様に、契約は白紙に戻り、貸主は受け取った家賃や敷金などを返還する必要が生じます。取引が根本から覆される、最も重いペナルティの一つです。
2.損害賠償請求
契約解除に至らない場合でも、告知義務違反によって買主や借主が被った損害について、損害賠償を請求される可能性があります。例えば、心理的瑕疵による精神的な苦痛に対する慰謝料や、再度の引っ越しにかかる費用、あるいは弁護士費用などがこれに該当するでしょう。
売買契約の場合は、事故物件であるために低下した資産価値分を損害賠償として請求されるケースもあります。請求額は事案の悪質性や損害の程度によって大きく異なります。
3.代金減額請求
買主は告知義務違反があった際、契約を解除する代わりに、物件価値の下落分について代金の減額を請求できます。これは「代金減額請求権」と呼ばれる権利です。
例えば、本来2,000万円の価値がある物件が事故物件であるために1,800万円の価値しかないと判断された場合、買主はその差額200万円の減額を求められます。どの程度減額されるかは、最終的に当事者間の交渉や裁判所の判断によって決まります。
4.宅建業法に基づく行政処分
仲介した宅地建物取引業者が、告知義務を知りながら故意に事実を伝えなければ、宅地建物取引業法違反となります。違反が発覚した場合、監督官庁(国土交通省や都道府県)から業務停止命令や免許取消といった重い行政処分を受ける可能性があります。
行政処分は不動産業者にとって死活問題であり、企業の信頼を著しく損なう事態です。そのため、健全な不動産業者は、告知義務の遵守を徹底しています。
事故物件の告知義務でよくある3つの質問
ここでは、不動産取引の現場で特によく聞かれる質問を3つ取り上げ、Q&A形式で分かりやすくお答えします。具体的な疑問を解消し、より深く告知義務について理解を深めていきましょう。
質問1.隣の部屋や共用部での死亡も告知義務はありますか?
原則として、隣接する住戸や、階段、エレベーター、廊下といった日常生活で通常使用する共用部分で告知対象となる死亡があった場合、告知義務の対象です。ただし、同じ集合住宅内でも、屋上や普段は使用しない共用施設での死亡は、買主・借主の判断に与える影響が少ないと考えられるため、原則として告知は不要とされています。
どこまでが「通常使用する共用部分」にあたるかは、個別の物件の構造や利用実態によって判断が異なります。
質問2.建物を取り壊して更地で売却すれば告知は不要になりますか?
更地にしても、告知は不要にはなりません。売買契約の場合、建物を取り壊して更地にしても、その土地の上で過去に人の死があったという事実は心理的瑕疵として残るため、告知義務はなくならないためです。
土地の取引においても、買主はその土地の歴史や背景を知る権利があります。過去の出来事を隠して売却した場合、後から事実が発覚すれば、契約不適合責任を問われ、損害賠償や契約解除といったトラブルに発展するリスクがあります。
なお、事故物件の買取相場と失敗しない業者選びのコツについては、こちらでご紹介しています。
関連記事:事故物件の買取で悩む前に!買取相場と失敗しない業者選びのコツ3つをご紹介!
質問3.告知されたら必ず契約を断らないといけませんか?
告知義務は、あくまで買主や借主が十分な情報を得た上で、契約するかどうかを自ら判断するための制度です。事故物件であると知った上で、価格や立地といった他のメリットを考慮し、納得して契約するなら何の問題もありません。
重要なのは、事実を知らないまま契約してしまうのを防ぐ点にあります。告知を受けた際は、内容を冷静に受け止め、ご自身の価値観に基づいて判断することが大切です。
まとめ
本記事では、2021年に国土交通省が策定したガイドラインに基づき、事故物件の告知義務について網羅的に解説しました。告知すべきは他殺や自殺、特殊清掃が必要になった死亡事案です。
一方、自然死や日常生活における不慮の事故は原則として対象外です。また、告知義務の期間は、賃貸では「概ね3年」、売買では「期間の定めなし」と明確に区別されています。
この義務を怠った場合、契約解除や損害賠償といった深刻なトラブルにつながる可能性があります。そのため、売主・貸主、そして不動産業者は誠実に対応しなければなりません。
買主・借主の立場としては、告知義務という制度を正しく理解し、万が一告知を受けた場合でも、その情報を基に冷静に契約の是非を判断することが重要です。